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映画『名探偵コナン』初期10作品感想|【後編】

コナン映画無料公開ようやく10作品を観終わりました。前編(↓)から引き続き、感想をまとめたいと思います。

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名探偵コナンイカー街の亡霊 (2002)

ベイカー街の亡霊

めちゃめちゃ面白かった。もう何度も見ていてどう展開するかも分かっているのに面白い。

本作では新一の親である工藤優作と工藤有希子が劇場版初登場。そして、事件の流れとしては最初に観客に犯人が分かる、いわゆる『古畑任三郎』方式で話が進む。

2002年の作品にして仮想現実や人工知能など、まさに今の技術を先取りしたような内容。未来の技術を使っているんだけど、舞台になるのは100年前のロンドンというところも憎い。まさにクローズドサークルで、しかも初めて(厳密には疑似だけど)海外が舞台になっていてワクワクせざるを得ないんですよね。

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コナン映画としては珍しく、世の中に対する風刺・批判が入ってるんですよね。個性の芽を摘み取るという日本の教育を改めるためにヒロキくんが作った人工知能は「日本のリセット」を目的として事件を起こす。こういう社会批判って普段のコナン映画にはない要素で、こんな政治的な話が入ってるんだと驚いた。しかもそれがストーリーを邪魔することなくむしろアクセントになってる。脚本をいつもとは違う野沢尚さんが担当したため、このような異色の作品になったのだろう。

事件も面白く、現実世界での殺人事件と、バーチャルの中での切り裂きジャックの事件、そしてヒロキくんが仕掛けたデスゲームという3つがものすごい絶妙なバランスで展開するので、飽きないし分かりにくくなることもない。

そして本作のテーマは「親子」なんですよね。親の愛情を受けられなかった切り裂きジャック、彼を先祖にもち血統を恐れるトマス・シンドラー、また親を早くに亡くしたヒロキくん、そして優作と目と目で会話する新一。前作までの蘭と新一のラブロマンスとは異なる、それぞれの親子の物語であり、グッときた。

アクション、推理、ストーリー、事件、コクーンという舞台装置、キャラクター、テーマ性、、。すべてが最高のバランスで成り立った初期コナン映画の1つの極地だと思う。

名探偵コナン 迷宮の十字路 (2003)

迷宮の十字路

初めて平次と和葉をメインにした作品。作画がセル画からデジタルに変わってグッと今風になった。バイクチェイスのCGシーンも見応えバッチリ。

実際にある京都の史跡を巡るため、聖地巡礼ができそうなところがいい。現実感がある。

和葉可愛いなー。平次もバイクや剣術が達者でカッコいい。新一と蘭が月明かりのもと出会うシーンも、どう見ても青山剛昌原画だろと思う安定の神クオリティで胸熱。

殺人事件の推理と、平次の初恋のひとは誰かという謎の2つが縦軸となっていて、事件が解決してもエンドロールにはならず、エピローグが入ってエンドロールという初めての流れ。それにしてもあの和尚、やることやってやがる。

盗賊団とかインターネットの普及とか、ところどころに古さを感じるが、この頃からもう20年近く経ってるのかと思うと時の流れって早い。

推理とアクション、そして恋愛がいいバランスで楽しく観れる。1作目からずっと劇場版やテレビシリーズを監督してきたこだま兼嗣さんがこの作品を最後に降板。本作までの7作をコナン映画の「神7」と呼ばせて頂こう。

名探偵コナン 銀翼の奇術師 (2004)

銀翼の奇術師

『世紀末の魔術師』以来、2度目のキッド映画。本作から監督が変わり、山本泰一郎が監督、絵コンテを務めている。

いやー、監督が変わると作品はこうも変わってしまうのか、とガッカリしてしまった。色々指摘したいところがあるので順を追って見ていく。

まず冒頭、いきなりビルの屋上でコナンとキッドが対峙するシーンから始まる。OPを挟んだのち、時系列を遡ってから物語が進み、中盤の山場で冒頭のシーンに戻ってくる。サスペンスではよくある構成で、『相棒』シーズン5の傑作回「バベルの塔」なんかはまさにビルの屋上から始まる同じような構成でしたね。ただ、両者で天と地ほどの差があるのは、「最も盛り上がるシーン」を前に持ってこれたどうかという点だ。コナンは残念ながら、中盤のシーンの盛り上がりに欠け、せっかく前に持ってきたシーンが開示される嬉しさが半減してしまった。

そもそもこれ、1日目の観劇のくだり必要か?と思うほど薄い事件の内容。2回くらいこの映画見たことあったけど、前半全く覚えていなくてビックリした。それほど薄い印象しか与えられてないし、2日目の飛行機と有機的に繋がらないのだ。これだったら最初から飛行機を舞台にして、名作『フライトプラン』に倣い、空の上という危険な密室でのサスペンスに仕上げた方が良かった。

また、アクションも本作は事件とは全く関係のないところで発生するいわば「事故」であり、犯人の存在からくる緊張感がない。前半のコナンとキッドの空中戦にしろ後半の飛行機にしろ、そもそもテンポが悪く見応えが少ない。絵コンテを描いた監督の責任は大きい。

終盤、不時着する滑走路の場所を歩美ちゃんが提案するわけだが、「テレビで見たよ」と言うのに前半で伏線となるシーンがないためカタルシスに欠ける。「それがヒントになっていたのか!?」という快感こそコナン映画の醍醐味ではなかったか。

あと1つ、最後はお決まりの一枚絵でエンドロールに入るんだけど、それが飛行機だけを描いたもの、という残念な出来だった。色々あったけど無事に不時着でき、ほっとするキャラ一同を一枚絵に収めてこそ大団円を迎えられるのでは?

偶発的に妃英理が推理をすることになるところや、蘭が操縦桿を握り園子がサポートをするなど、意外でよいシーンもあったのだが、いかんせんこれまでの7作と比べるには酷な作品となってしまった。

名探偵コナン 水平線上の陰謀 (2005)

水平線上の陰謀

豪華客船の上で起こる殺人事件。定番の爆発もあり、沈没する船上から生きて帰れるか、という話。監督は前作から引き続き山本泰一郎監督。

前作が微妙な出来だったために不安な気持ちで鑑賞したけど、前半で「だいぶ良いな」という感触があった。最初から船が舞台ということで腰を据えて観ることができるし、サスペンスの定番クローズドサークルを達成している時点で前作から進歩している。

また、今作は蘭と園子の友情が伝わる会話、歩美・光彦・元太の健気な画策など、見ていて微笑ましいシーンが多かった。灰原が光彦をからかったり、園子と組んでかくれんぼの鬼をやったりと灰原が絡むシーンも見ていて楽しかった。

さらに、今作でも例外なく爆発→パニックというお決まりの流れが発生するが、犯人がちゃんと仕組んで起こしたものなので緊張感があった。事件と推理も割としっかり描けていたし、驚く展開も用意されている。

そして何と言っても本作で特筆すべきは小五郎のカッコよさ。眠ってないのに事件を(正しく)推理し、持ち前の空手で犯人をねじ伏せるシーンには痺れた。普通に推理できたらこんなにおっちゃんカッコいいんだと思いましたね。しかもなぜ犯人に気づけたかというそのワケが、妃英理を想う気持ちから来ていたのも胸アツ。最高か?

まあ所々演出が緊張感を欠いていたり、アクションのコマ割りが微妙なところもあるけど総じて「良い話」を観れた感が強い。伏線もしっかり回収されるし、後味もよい。

名探偵コナン 探偵たちの鎮魂歌 (2006)

探偵たちの鎮魂歌

小五郎やコナン、服部平次たち探偵が正体不明の「依頼主」から招かれ、ある事件を推理して欲しいと頼まれる。タイムリミットまでに推理できなければ人質として蘭や和葉、少年探偵団の腕に付けられた爆弾が爆発してしまうーーというお話。

公開当時、10周年記念映画として「オールスター出演」が謳われ、なんと犯人はコナンが新一だということを知っている!と煽る予告が流れ、興奮して劇場まで観に行ったことをよく覚えている。実際観ても、「面白かった」という感触があったように思う。

改めて観ると、たしかに面白い。山本泰一郎監督になってから3作目、彼なりの1つの頂点に立った作品だと思う。特にOP前のアバンタイトルはシリーズで最もワクワクした。これまでは過去の回想が流れOPへ、というパターンが多かったが、本作ではリアルタイムで犯人による推理ゲームが幕を開ける。これが否が応にも観客の期待感をそそる。

OPをよく見ると、脚本はこれまで多くを担当した古内一成ではなく、柏原寛司になっている。彼は『ルパン三世』のテレビSPの脚本を書いていたひとなので、本作にもその色がよく出ているなーと合点がいく。

終わってみれば、しっかり推理もしてるしアクションもあるし、推理ゲームに参加させられるという設定は楽しかったのだけど、色々と「もどかしい」ところに気づく。

まず大きなこととして、犯人のバックボーンが見えてこないというのがある。本作は構成上、事件の(登場人物を含めた)全貌が中盤以降に明らかになる。また、人づてに聞いた話や回想シーンのみで事件の顛末が語られ、本人たちがきちんと描かれるのはラストのみである。このせいで犯人たちがどういう人となりなのか、なぜ事件を起こしたのかが見えず、感情がイマイチ乗ってこない。

また、遊園地内で起こるひったくりのくだりだけど、このシーンが事件の本筋とは一切関係ないため浮いてしまっている。敷地の外に出ると爆発してしまうんだよ、と観客にリマインドする機能しか果たさないのが残念。

それから、コナン映画の醍醐味(あるいはファンが求めるもの)と言ってよい、新一と蘭のラブロマンスや、事件解決に必死になるシーンがなく、淡々と事件を解いているだけなのがコレジャナイ感。もっと白目ひん剥いて命を燃やしてこそのコナン映画なのでは?

とまあ、これらの「もどかしさ」に目を瞑れば、最後の園子のIDにペンキが付いていたところや白馬探の正体など、観客の推理に委ねる部分もあったり、灰原が子どもっぽく振る舞うシーンや高木刑事がデートに来ていたシーンなど、笑える部分もあったりと、全体的に楽しく見れた。区切りの作品として、お祭り感覚を味わうには十分だろう。

まとめ

山本泰一郎監督の作品を観ると、こだま兼嗣監督による「神7」は偉大だったな、と思わされましたね。それでも山本監督の成長も感じられて目を細めてしまいました。

コロナで自粛期間、太っ腹な企画をしてくれたチームには感謝しかないです。駆け抜けた感がありますし、良い振り返りになりました。新作『緋色の弾丸』が無事公開されるのが楽しみです。