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映画『すばらしき世界』試写会感想|西川美和監督の新たな境地(極力ネタバレなし)

試写会にて。結論から言うと、めちゃくちゃ良かったです。

すばらしき世界

ほんとはネタバレして書きたいところですが、試写会に行って一足先に観た自分としては少しでもこの映画を広めないといけない、、!という使命感があるので、できるだけネタバレせずに書きます。

本作はまず、笑って泣ける映画でした。ユーモアあり、涙あり。まさか西川作品で泣くことになるとは思わなかったから、新鮮に思えました。これまでの西川作品でも心に迫る描写はあったけれど、それはむしろ世界観に浸るようなしみじみとした感触が湧く程度だったように思います。しかし、本作では役所広司さん演じる元極道の男・三上(みかみ)の実直な生き方と、それを支える周囲との関係に涙する、感動する作品というエンターテイメントに仕上がっていたのは、西川監督ファンの自分としても嬉しい誤算でした。

過去に殺人を犯し、刑務所での服役を終えた男・三上(役所広司)は、身元引受人の弁護士(橋爪功)を頼りにしながら、久々に自由の身となって"カタギ"の生活を始めようとする。しかし、長年ヤクザをしてきた彼にとって「普通の社会」は肩身の狭い思いをする場所だった。小説家への転身を図ろうとしていたテレビディレクターの津乃田(仲野太賀)は、彼の生き別れた母親探しを番組で特集することになり、彼への取材を始めたのだった、、

すばらしき世界

あらすじ的にはこんな感じですが、とにかくこの作品は、最初から最後まで徹頭徹尾、俳優「役所広司」を撮る映画でした。温かい表情を見せたかと思えば、激しい怒鳴りを見せる。極道の血がまだ抜けていない、というハラハラする微妙なラインをうまーく演じていて、目が釘付けになりました。彼のいぶし銀の名演技の数々にグッとくるものがありました。泣けます。

西川監督ならではの、社会派としての側面も忘れることなく、パンチが効いたエッセンスがあります。この映画の根底に流れるのは、「この世って生きづらい」というテーマだと思います。一度道を踏み外した者が、再びちゃんとした職にありつくのはかなり難しいという現実。さらに、実直な男である三上は、オヤジ狩りや弱い者いじめを見て見ぬフリができない。普通の人は厄介事を恐れて目をつむり、耳を塞ぐようなことでも、どんどん首を突っ込んでしまいます。

三上や彼を取材する津乃田の視点を通して、こういった現実に切り込んでいき、誰もがハッとするようなメッセージをこの映画は伝えています。人間の嫌な部分を切り取って見せる、というのは『蛇イチゴ』から始まる西川作品に共通するこだわりです。しかし本作ではさらに、そういう生きづらさみたいなものがあるけれど、この世には人と人とがつながることで生まれる暖かさや希望がある、という少しの救いを与えているんですよね。これが鑑賞後の気持ち良い余韻につながっていました。

個人的に良いなあと思ったのは、ディレクターの津乃田を演じた仲野太賀さんの演技。ドラマ「恋あた」で一躍脚光を浴びた彼の人懐っこい目や表情、、!!これから大注目の俳優さんです。

取材をする津乃田
仲野太賀さん、いい役でした

本作は映像の面で光の見せ方にこだわっていたり、音楽でもシーンを彩るピアノの旋律が美しく、芸術的センスも崩れることがありませんでした。

社会派の側面とエンタメを見事に両立させた本作で西川美和監督の新たな境地が拓くのを見た気がしました。