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映画『新聞記者』感想|単なる告発映画ではない、一般化したテーマ性

官邸に疑心の目を向けた映画だが、高いメッセージ性から日本アカデミー賞作品賞、さらには主演女優賞・男優賞の3冠に輝いた作品。受賞を記念して再上映がかかっていたので、映画館まで見に行ってきた。

新聞記者

新聞記者として真実を求める姿勢を貫く吉岡(シム・ウンギョン)と、内閣情報調査室のエリート官僚として政権に不都合な情報をコントロールする仕事をするも疑問を感じている杉原(松坂桃李)。

東京新聞記者、望月衣塑子の同名ノンフィクション作品を原案にしただけあって、SNSを使った大胆な情報操作など、「本当に行なわれているのでは?」と不安を煽るようなリアリティだった。

日本アカデミー賞の授賞式では、シム・ウンギョンがスピーチの際に号泣していたことが印象的で、この作品に懸けていた思いがよく伝わってきた。なので、どれほどの感情をぶつけているのだろう、と楽しみにしながら鑑賞した。

だが、意外と抑制した演技で、終始、目で訴える演技をしていた。大きな目がとても迫力があった。ただ、望月記者は実際には執拗なまでの質問を繰り返すことで有名らしいが、シム・ウンギョンは韓国人で言語の壁もあって、それを再現するには至っていなかった。作品の内容が内容なだけに、主演を引き受ける日本人女優がいなかったらしいが、ここだけが残念。

むしろ、セリフが少ないながら、ここまで引き込まれる演技を見せたシム・ウンギョンの底力を感じたので、今後の活躍も見てみたい。

松坂桃李も、「正しいこと」と「仕事」の間で葛藤するその悩みを、表情で見せる演技が良かった。自分がやりたいことと、仕事でしなければならないことの乖離というのは、おそらく誰にでもある。芸人さんはテレビで言えないことは普段我慢している。ニコラス・ケイジは借金を返すためにB級映画だろうがC級映画だろうが出演した。僕も、自分のことを顧みてしまった。

杉原の役どころがあったおかげで、この映画は単なる政府告発映画としてではなく、一般に共感を呼びうる映画としてワンランクアップしている。

ラスト、横断歩道を挟んで対峙する2人。杉原は口の動きだけで「ごめん」と吉岡に伝え、無音のままエンドロールを迎える。彼は、自分の信念と、生まれたばかりの子供を抱える家族とを天秤にかけ、結局自らの保身を選んでしまう。結局そうなっちゃうのね、というのはラストは残念だったが、田中哲司演じる上司の圧力が物凄かった(笑)のを考えると、仕方ないという気持ちになる。

映像としては内閣情報調査室はブルーのかった冷徹な画面になっており、一方、新聞社内はカメラを揺らし、慌ただしさを演出していた。揺らしすぎて見にくいところもあったので、もう少し工夫してほしかった。

個人的には吉岡の上司、陣野(北村有起哉)がいい役だった。はじめは吉岡の仕事を差し止めようとするが、最終的には理解者となり記事を出そうとする姿はツンデレかよと突っ込みたくなったもののカッコよかった。

本作を面白いと思った人は、同様にジャーナリズムの葛藤を描き、2016年のアカデミー賞を受賞した『スポットライト 世紀のスクープ』も面白いのでぜひ。