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映画『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』感想|キャラクターの内面に踏み込んだ正統続編

ベニチオ・デル・トロジョシュ・ブローリンという強面の2人が主役を張る、シリーズ2作目。前作『ボーダーライン』を成功に導いた監督やスタッフはほとんど降板となっていますが、脚本のテイラー・シェリダンは続投しており、前作のもつ重々しい空気を色濃く反映した佳作となっています。

ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ
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本作は単体で見ると??となるようなシーンがあり、あまり初見向きではないです。というのも、前作ではエミリー・ブラント演じるFBI捜査官ケイトが、我々観客の「案内役」となり、メキシコや麻薬カルテルカルテル間紛争のやるせない現実を体験させるという作りになっていました。

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本作ではその「案内役」が取っ払われており(強いて言うならイザベル?)、主役の2人ーーアレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)とマット(ジョシュ・ブローリン)の内面により迫ってみようという試みが感じられます。物語としても、麻薬カルテルに留まらず、アメリカ政府やロシア当局が関与しており、スケールの大きさが垣間見られるようなストーリーとなっています。

さてこのシリーズ、原題では「暗殺者」を意味する「Sicario」となっていますが、邦題では「ボーダーライン」と変えられています。僕はこの邦題も気に入っています。それは、「ボーダーライン」がアメリカとメキシコの国境を意味するのみならず、そこには善と悪の境界、という意味も含められており、この映画をよく表す含みのある言葉だからです。

前作のテーマがアレハンドロの復讐ならば、今作のテーマは個人としてのモラルでしょう。すなわち、前作ではアレハンドロが個人的な恨みからカルテルの頭領に復讐を果たすというのが骨子ですが、今作ではアメリカ政府の下す作戦命令に背いてでも、個人の道徳的観念からある一人の娘ーカルテルのリーダーの娘イザベル(イザベラ・モナー)の命を守るというのが骨子となっています。

これは、非常に好対照を成しています。前作が怒りと執念に満ちた「殺害」を描いたのに対し、今作は同情と倫理感による「保護」を描いているのです。善悪のボーダーラインを考える登場人物も、ケイトから、アレハンドロやマット自身にシフトしており、それぞれの登場人物をより深く掘り下げることに成功しているなーと思いました。

本作の監督はドゥニ・ヴィルヌーヴからバトンタッチしたイタリア人、ステファノ・ソリマが務めていますが、この監督、かなり実写にこだわりを持っている方のようで、メキシコとの国境付近の砂漠やメキシコシティでのロケはもちろん、密入国の川渡りもロケで撮っています。また、爆発や火炎も実際に起こしており、俳優の自然な演技を引き出す効果が狙われています。さらに驚くべきことに、ラストのブラックホーク2機でカルテル集団の車を挟み撃ちしたシーンも、すべて実写で撮影されたもので、迫力のあるシーンに仕上がっています。僕はあれ完全にCGだと思っていました。素晴らしいです。

新キャラクターとして登場したイザベル(イザベラ・モナー)とミゲル(イライジャ・ロドリゲス)も良い味を出していました。イザベラ・モナーはとても魅力的でしたね。「こいつらは何をしようとしてんのか?」という不安げな表情が、我々観客の気持ちを代弁していました。また、この映画のもう一つの軸となっているミゲルのストーリーも、カルテルの世界に足を踏み入れるという辛いものがあり、引き込まれました。

どうも続編があるようで、ラストでは撃たれて死んだと思われていたアレハンドロがミゲルのもとに顔を出すという意外性のあるシーンで終わり、先が気になりました。この重苦しい雰囲気でまた続編をやってほしいですね。