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映画『響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜』感想|代替わりと群像劇、『リズ』との比較について

いやー素晴らしい出来栄えでしたね。この作品を見ることで、改めて『響け!』が強いコンテンツであることを再確認しました。『響け!』というコンテンツが素晴らしいのは、「時の流れ」「複数の視点」を描くことが出来るからだと思っています。

誓いのフィナーレ
(c)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

まず、「時の流れ」についてですが、多くの長寿アニメがサザエさん方式を取るなかで、『響け!』では1年、また1年と時を重ねていきます。アニメ版1期と2期では久美子たちが1年生のとき、そして本作では、久美子たちが2年生に進級し、後輩をもつ様子が描かれます。

3年生がきちんと卒業していく、そして新しい1年生が入ってくる。これって現実世界では当たり前なんですが、しっかり「代替わり」を描くアニメはなかなか無いんじゃないでしょうか。それはひとえに京都アニメーションがもつ、類まれな安定力によるものでしょう。すなわち、1期をやり2期を放送し、劇場版まで作り届けることが出来るという、長期的な体力、経済力が京アニに備わっているからこそ、学年をまたいだ話を届けることが出来るということです。

見る方としても、人間関係の変化を楽しむことが出来ますよね。去年こんなことがあったから、今年はこんな対応ができる。久美子も、田中あすかという先輩がいたから、今年は新メンバー・奏ちゃんを受け入れる努力ができる、というように。

次に、「複数の視点」から描くことが出来るという点ですが、久美子たちが2年生に進級した本作は、去年の作品『リズと青い鳥』と時を同じくしています。『リズ』ではみぞれとのぞみにフォーカスを当て、本作ではいつもどおり久美子にフォーカスを当てています。同じ時の流れでも、それぞれの登場人物に物語があるのは素晴らしいですよね。現実もそう。同じ時を過ごして、同じ場所に居ても、見ているものは違うし、ましてや気持ちは全く異なるものです。

本作でもコンクールで「リズと青い鳥」の曲が演奏されますが、『リズ』を見た人にとっては素晴らしいシーンでしたね。あの背景を知っているからこその感動がある。特に、みぞれを回り込みで描く作画は気合が入っていて素晴らしかったと思います。

さて、本作のストーリーや描き方についてですが、再び「努力と才能」、上手い人がやるのか?上級生をたてるのか?といったテーマを肝に据えています。また来たか、と。でもやはりこのテーマを通して、現実にもよくある、本音と建前にまみれた人間関係、面倒くさいけどその中にも良さがあるんだ、ということを伝えることができると思います。

奏という、一見人が良さそうなキャラも、ずいぶん抱えるモノがあったように、良く思われたい、という打算的な猫を被った人間は少なからずいるんじゃないでしょうか。本作ではこれまで数々の人間関係に手を貸してきた、黄前"相談所"が、彼女の化けの皮を剥がし、過去を聞き出すことに成功しています。

やはり僕としては、『リズ』のような静的なものよりも、本作やテレビシリーズのように、セリフによって感情をぶつける、というような作りが好きですね。言葉では伝わらない"何か"を作画と演出で伝えるのも悪くないんですが、声優さんのお芝居に乗せて"気持ち"を届ける方が、ドラマ性がある。こちらの方が性に合っているような気がします。さらに言ってしまうと、テレビ2期のような、詩的な演出やメタファーを織り交ぜながら、という塩梅がもの凄く良いのですが、さすがに劇場版でそれをやる余裕はないか。

本作では春から秋にかけての物語を詰め込んでいますが、テレビシリーズで見たのと年内イベントは同じなので、無理のない構成となっています。久美子と秀一の恋模様の進展も織り交ぜる懐の深さ、リアルな感じが良かったです。個人的には求くんのサファイアちゃんへの弟子入りとか、お父さんとの確執とかをもっと見たい。

ラストではついに久美子が部長になったことが明かされます。副部長は本命の彼女かな...?続編に期待します。